恋人のフリはもう嫌です

「では、どういったご用件でしょうか」

 身構えて聞くと、彼は迷いなく言った。

「ほかの別の誰か。ではなく、彼女本人の答えが聞きたいです。二人で話をさせてください」

「ふざけるな。彼女は俺のものだ」
 荒げたい声を抑え飲み込むと、かろうじて別の言葉を発した。

「わかりました。明日の午前中。一緒に朝食を取れるように手配します」

 奇しくも明日は休日だ。
 この提案は、最大限に譲歩したつもりだ。

「では! 彼女の」

 弾んだ声を苦虫を潰した気持ちで聞き、努めて淡々と告げる。

「彼女にもそう伝えますが、もしも彼女が現れない時は、それが彼女の答えだと思ってください」

 しばらくの沈黙が流れたあと、松本さんは短く応えた。

「わかりました。西山さんを信じます」
< 203 / 228 >

この作品をシェア

pagetop