恋人のフリはもう嫌です

 顔に触れるなにかが、くすぐったくて目を覚ます。

「ん。透哉さん」

 目の前にある愛おしい人の名前を呼び、彼の体に顔をすり寄せた。

「朝からかわいい顔して甘えるのは、反則でしょう」

 チュッとリップ音をさせ、私のおでこにキスを落とした透哉さんの方が激甘でしょう。と、思った私は呆然とする羽目になった。

「Buona giornata という店を予約した。松本さんが、お会いしたいそうだ」

「え、誰、と」

「千穂ちゃんと」

 顔を上げても、目を伏せている彼とは目が合わない。
 長いまつ毛が顔に影を作り、その瞬きを見つめても彼の心の中は知れなかった。
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