恋人のフリはもう嫌です

 透哉さんに送り出され、別の男の人に会う。
 どういうつもりなのかは、とうとう聞けなかった。

 松本さんからかかってきた、職場への電話。
 その対応をお願いした時に、なにかをニ人で話した結果がこれなのだろうか。

 甘いひとときが、嘘みたいに思える。

 ニ人で会って、きちんと振って来いという余裕ある行動と思えばいいのかな。
 ニ人で会ったとしても、なびいたりしないと信用されているのかな。

 ポジティブに考えようと思っても、どれもしっくりくる答えに思えない。

 それどころか、想像上の透哉さんが勝手に話し出して心を抉っていく。

「年齢的にも、松本さんとの方が似合っているから」
「彼の熱意に押されたら、自分はそれほどでもないと気づいたから」
「飽きてきたから、ほかの男に譲ってもいいかなって」

 悪意ある言葉ばかりを口にする想像上の透哉さんは、冷酷で淡々としていた。
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