恋人のフリはもう嫌です
お店に着くと既に松本さんはいらしていて、軽く手を上げて私に合図をした。
足取り重く彼の前に行くと「呼び出すような真似してごめんね」と、謝られた。
「ええ。そうですね」と相槌を打つわけにもいかず黙っていると、彼は安堵の声を漏らした。
「来てくれてよかったよ。西山さんが伝えてくれない可能性が、ないわけでもなかったし」
「なにを透哉さんにお願いしたのですか」
「透哉さん、か」
松本さんが眉尻を下げて言うものだから、「あ、いえ。あの」と、顔を俯かせた。
「いや。取り繕う必要はないよ。二人が付き合っているのは、明白だし。電話をかわられたのは、さすがに堪えた」
「それは、あんな、非常識です」
グッと彼を見つめると、彼はバツが悪そうに言った。
「それはごめん。ああでもしないと、藤井さんと話せないから。それに」
言葉尻を濁らせる彼に、私は「それに?」と、先を促した。
「盤石かと思っていたけれど、もしかして割り込めるのならって」
盤石だと思っていたのは、私と透哉さんの関係を、と言いたいのかな。
盤石だなんて、松本さんの思い過ごしだ。