恋人のフリはもう嫌です
彼は自分の体の前で手と手を組んで、その手を見つめるように話し始めた。
「俺は結婚がしたいわけでも、子どもが好きなわけでもない」
別に彼からのプロポーズが聞きたかったわけじゃない。
けれど、あまりの言葉に愕然とした。
私の表情を見て、彼が頬を緩ませて言った。
「そんな顔をしないで。話す順番を間違えたね。俺は千穂ちゃんが好きだよ」
「はい」
慰めで言われている気がして、『好きだよ』の嬉しさが大暴落する。
きっと彼の未来に私はいない。
その事実が、こんなにも悲しい。
「俺は」
言葉を詰まらせる彼の話の続きを聞くのが怖い。
私は力なく頭を振って、彼の体にしがみついた。
「なにも言わずに抱いてください」
息を飲んだ彼が、私の体に腕を回す。
「好きだよ。千穂」
囁くような愛の言葉も、私の乾いた心には届かなかった。