恋人のフリはもう嫌です

 ベッドに横たわる彼が、私の髪を撫でながら言う。

「体だけが目的、とかじゃないからね」

 行為のすぐあとに話す内容にしては、配慮を欠いている。
 敢えて言葉にするのは、そうだと言っているみたいに聞こえると想像が及ばないのだろうか。

 彼との蜜月は甘い。
 彼は私に触れる度に、恥ずかしげもなく愛の言葉を囁く。

 でもそれはきっと、そういう時のマナー。
 恥ずかしくて耳を覆っていたくなるような蜜語もなにもかも、そういう時の彼の雰囲気に飲まれてしまう。

「まあ、実際すごくいいからね。困ったことに」

「なにが、ですか?」

 彼を窺うと、視線だけ寄越しぼやくように言われた。

「千穂ちゃんとの触れ合いというか、セッ」

 良からぬ言葉を言いそうな口を、両手で塞ぐ。

「言葉を考えてください」

 咎める口調で言ったのに、彼には響かない。
 塞いだ手のひらに、不穏な感触がして「ひゃっ」と声を上げた。

 引っ込めようとした手は、手首を掴まれて動かせなくなった。
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