恋人のフリはもう嫌です

 今度は見せつけられるように手のひらを舐められ、吐息が漏れる。
 艶かしい眼差しを向けられ、不埒な感情が首をもたげそうになる。

 嫌だ。
 また彼に流されたくない。

 なにもかも忘れようと彼に溺れるのは虚しいだけだと、たった今思い知ったばかりなのに。

「ダメ」

「その『ダメ』は、『もっとして』の同義?」

「ちがっ」

「相性は悪いより、いい方がいい」

「それは、そうですね」

 そういう発言が、体だけなのだと思うのでしょう。
 勘違いしないでって、どの口が言うのか。

「休日だもの。まだまだ時間はたっぷりあるよね」

「えっ。また?」

「お望みとあれば」

 お望みと、と言っておいて、自分の思い通りにしてしまうくせに。
 口惜しいのに、彼の色気の前になす術はない。

 悩ましい眼差しを向けられ、彼が私に触れる。
 吐息を漏らし、彼に身を委ねた。
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