恋人のフリはもう嫌です
「藤井ちゃん」
吉岡さんの声に我に返ると、辺りは黄色い歓声に包まれていた。
歓声の中心には困惑顔の透哉さんが、何故だかブロッコリーを手に立っていた。
「おめでとうございます。新郎からのブーケトスならぬ、ブロッコリートスを見事、受け取った彼にひとこといただきましょう」
司会の人と周りの人に促され、前の方に歩んでいく彼はマイクを渡されて軽く会釈をした。
「西山です。新郎とは友人で。まさか自分が受け取るとは思いませんでした。バトンを繋げられるように尽力したいです」
悲鳴にも似た歓喜に湧いて、異様な盛り上がりを見せた。
私はといえば、吉岡さんに肘で突かれて小さくなっていた。
それから新婦のブーケトスも行われ、同じように受け取った人がコメントをする。
幸せな光景なのに、ふとした時にぼんやりしてしまって、慌てて雑念を追い出した。