恋人のフリはもう嫌です
披露宴も終わり、吉岡さんと話していると、いつの間にか透哉さんが近くにいた。
「千穂ちゃん、一緒に帰れる?」
「え、私は」
吉岡さんに助けを求めたのに、誤解したらしい彼女は「どうぞどうぞ」と、私を差し出した。
恨めしい気持ちでいるのに、吉岡さんは満面の笑みで去っていく。
「ごめんね。まだ話し足りなかった?」
仏頂面の私を見て、透哉さんは頬を緩ませている。
本当に、彼は普通で。
私は、なにに引っかかっているんだろう。
彼の未来に私がいなくても、今の彼は私を大切にしてくれていて。
「あの、さ。千穂ちゃんのご両親も参列されているよね?」
「え、ええ。はい」
そう言った彼は、珍しく緊張した面持ちで続けた。
「ご迷惑じゃなかったら、挨拶してもいいかな」
目を丸くして言葉を失っていると、彼は肩を竦めてみせた。
「そんなに驚く? 俺なりに、千穂ちゃんとは真剣に付き合っているんだよ」
嘘。だって。そんな。
狐につままれた気分で、彼を自分の両親のところまで案内する。