恋人のフリはもう嫌です

「お父さん、お母さん」

「ああ、千穂。そちらは?」

 私を見て一瞬嬉しそうな顔をした父が、固い顔をさせて透哉さんを見つめた。
 透哉さんの緊張がうつったのか、私も手が震える。

「あの、こちらは西山透哉さん」

「初めまして。挨拶が遅くなりました。西山透哉と申します。千穂さんとお付き合いをさせていただいています」

 頭を深々と下げた彼に胸が締め付けられ、自分自身の手を握りしめる。

「そう。君が」

 父がそう言うと、透哉さんは思わぬ言葉を告げた。

「千穂さんは若いので、まだ早いと思われるかもしれませんが、彼女と」

「それは、順番が違うのではないですか」

「え」

 父の声を聞き、透哉さんは言葉を止めた。
 透哉さんが父の視線を辿り、彼の斜め後ろに立っていた私を見て息を飲んだのがわかった。
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