恋人のフリはもう嫌です

 私は自分の頬に手を当てて、慌ててハンカチで押さえた。

 感動の結婚式に参列して、涙腺が故障しているのかもしれない。

 彼が父に話す言葉を、心が勝手に都合よく補正して、今日までのはっきりしない心のもやもやと混ざって決壊させた。

「健太郎くんなら、結婚させてもいいかなあと思っていたのだけどね。彼は結婚してしまったし」

 本当にどうしてそんなに健太郎さんを信用しているのか、父に聞いてみたい。

「健太郎くんが認める男なら」

 そこで話を区切った父が、付け加えて言った。

「あとは千穂の気持ち次第だ。2人でよく話し合いなさい」

「はい。ありがとうございます」

 再び深く頭を下げた透哉さんと一緒に、私も父に頭を下げた。
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