恋人のフリはもう嫌です
西山透哉side
4月に入ってすぐ。
俺は健太郎に相談された。
帰ろうとしていたところを呼び止められ、一階ロビー付近で立ち話をする。
相談の内容は、健太郎のいとこが入社してきたというのだ。
「身内の欲目だけじゃなくさ。男に人気があって心配になるんだよ。俺にとっては、かわいい妹みたいな存在で」
「へえ。健太郎のいとこ、ねえ」
垂れ目の優しそうな顔つきの健太郎。
ただ中身は見た目通りとはいかない曲者なのは、長い付き合いで知っている。
多少なりとも同じ血が流れているのなら、心配はいらない気もするが。
健太郎は、至極真面目な顔で訴えた。
「変な虫がつかないかどうか、透哉に見張っていてほしいんだよ。俺だけだとどうにも手が回らなくて」
「おいおい。変な虫の代表みたいな俺に頼む案件じゃないだろ」
呆れ声を上げると「ほら。噂をすれば」と健太郎が声を落とした。