恋人のフリはもう嫌です

西山透哉side

 4月に入ってすぐ。
 俺は健太郎に相談された。

 帰ろうとしていたところを呼び止められ、一階ロビー付近で立ち話をする。

 相談の内容は、健太郎のいとこが入社してきたというのだ。

「身内の欲目だけじゃなくさ。男に人気があって心配になるんだよ。俺にとっては、かわいい妹みたいな存在で」

「へえ。健太郎のいとこ、ねえ」

 垂れ目の優しそうな顔つきの健太郎。
 ただ中身は見た目通りとはいかない曲者なのは、長い付き合いで知っている。

 多少なりとも同じ血が流れているのなら、心配はいらない気もするが。

 健太郎は、至極真面目な顔で訴えた。

「変な虫がつかないかどうか、透哉に見張っていてほしいんだよ。俺だけだとどうにも手が回らなくて」

「おいおい。変な虫の代表みたいな俺に頼む案件じゃないだろ」

 呆れ声を上げると「ほら。噂をすれば」と健太郎が声を落とした。
< 22 / 228 >

この作品をシェア

pagetop