恋人のフリはもう嫌です

 女性がひとり歩み寄ってきた。
 この女性が話していた健太郎のいとこだとしたら、想像していた人物とはかなり違う。

 顔立ちがはっきりとした目が覚めるような美人で、なによりも若い。

 彼女は整った顔立ちを緩め、柔らかな笑みを向けた。
 俺らに、というよりも健太郎に向けて。

 きっと彼女の目に、俺は映っていない。

「健太郎さん。お疲れ様です」

「うん。お疲れ」

 健太郎はといえば、目尻が下がり切っている。

 だらしない顔しやがって。

 こいつ俺とは種類の違うタチの悪い男だろ。
 無自覚たらしめ。

 彼女から向けられる好意に気づきもせず、自分は恋人になる気はないくせに。

 健太郎の性格だ。
 彼女に言い寄ってくる男は、ことごとく排除しているだろう。

 俺に頼んだことを、後悔すればいい。
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