恋人のフリはもう嫌です

「すごい執念ですね」

 私が苦笑していると、吉岡さんは綺麗な黒髪を後ろに流しながら「私も彼とお話してみたいわよ」とこぼした。

 吉岡さんはクールビューティーという呼び名が相応しい美人さんで、化粧を一歩間違えると夜の仕事にいけそうな私としては憧れる容姿だ。

「吉岡さんでもお話ししたいって思うんですね」

「それはだって。身近な芸能人みたいなものじゃない」

「彼氏さん、悲しみますよ」

 吉岡さんは長くお付き合いされている彼がいて、その話もよく聞かせてもらっている。

「恋人と目の保養は別物!」

 そんなにもすごい人なんだなあと、ぼんやり思う。

 今日までに吉岡さんに散々教えてもらって、西山さんの特長をそらんじることだって出来そうなくらい私でも知っている。

 眉目秀麗で、有能で、おまけに背も高くて、色気が半端なくて。
 目が合っただけで、見惚れてしまいそうな容姿なのに、気さくで話しやすい。

 ただ、女性関係は派手らしく、要するに軽い男性なのだと理解して、私の中ではお近づきになりたくない人物ナンバーワンだった。
< 3 / 228 >

この作品をシェア

pagetop