恋人のフリはもう嫌です
苦し紛れに憎まれ口をたたく。
「キスで、機嫌が取れると思わないでください」
「ブハッ。いいね。その上から目線」
楽しそうに笑う彼から目を逸らす。
やめてほしい。
西山さんにからかわれると、打ち合わせの緊張どころではなくなる。
まさか。
「私の緊張をほぐすため、わざと?」
「ん? なにが?」
はぐらかした彼の真意はわからない。
「そろそろ行こうか」と彼は車を発進させた。
美しい横顔を見つめ、薄い唇で視線が止まりそうになり、慌てて目を逸らす。
思い描いていた人物とは違うと感じる時もあるのに、どうしてか一方的に憧れていた時よりも今の方が、自分の心の中に占める彼の割合が大きくなっている気がしてならない。