恋人のフリはもう嫌です

 打ち合わせはゲートを通った先にある、打ち合わせブースで行う。
 メールで送られていたB-2と表示されたブースの前で、もう一度スマホをかざす。

「厳重ではありますが、少し手間ですね」

「まあ、製品の宣伝も兼ねているのだろうね」

 機密を扱う部署にはいいかもしれない。
 けれど、お高いのでしょう? と、心の中で庶民的な考えが浮かぶ。

 ブースの中で待っていると、担当の人がやってきて「お待たせして申し訳ない」と頭を下げて入ってきた。

「いえ。こちらも製品を見たかったので、早めに伺わせていただきました」

 戸田設備の担当してくださる方は、営業の荒井課長。
 30代後半という感じの、中肉中背の男性。

 そしてもうひとり、二十代後半くらいの女性。

 西山さんから順に名刺交換をして、私は気付かなくてもいい点に気付いてしまった。
 女性と西山さんの名刺交換の際、女性が西山さんの指先に触れた。

 たまたま当たっただけかもしれない。
 けれど、たまたまには思えないなにかを、感じ取ってしまった。
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