恋人のフリはもう嫌です

「悪い。大人げない理由だが、ここはナシにしたい。課長は話が通じないし、アシスタントも最悪だ」

 西山さんの思わぬ本音を聞き、私も抑えていた思いを吐露する。

「私、途中で「うちの西山が作るシステムの方が絶対にすごいです!」って啖呵を切りたくて仕方なかったです」

 鼻息荒く言うと、隣から手が伸びて彼が私の頭を引き寄せた。
 突然距離が縮まって、声が裏返る。

「わっ。あの、まだ戸田設備の駐車場」

 こんな行動でささくれていた心がほどけていくなんて、私はどうしようもない。

 彼からはいい匂いがして、胸が鼓動を速める。

「啖呵を切るところ、聞きたかった」

 すぐ近くで囁かれる甘い声色に、胸はキュンと鳴いた。

「よく我慢したって、褒めるところなのでは?」

「ハハ。まあ、対外的には、それが正しいだろうな」

 頭を数度撫でられてから、解放される。

「社会人として、場を弁えなければね」

「はい」

 彼はハンドルを握り、車を発進させながら言う。

「ありがとう。『うちの西山が作るシステムの方が』って言葉、嬉しかった」

 前を向いたまま伝えられる言葉に、温かい気持ちがトクンと流れる。
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