恋人のフリはもう嫌です

 彼は長い脚を組み、その上に手を置いて話し始めた。

「たまに視線を感じるんだ。俺の勘違いかもしれないが、俺たちの関係を疑うような人のね」

「じゃ、さっきも」 

 見られているから来て、という言葉も、俺たちの関係が疑われている、というのも。
 彼に好意を持っていて、私たちの関係をよく思わない人に見られていた?

「それ、ストーカーって言わないですか?」

 自分の口から出た物騒な単語に、恐ろしくなる。

「そこまでひどくはないと思うよ。でも、安心して。千穂ちゃんに危害が及ばないように、俺が守るから」

 サラリと言われる特別な言葉に、胸が熱くなる。

「どこか、情けない話でした?」

 疑問がそのまま口をついて出ると、彼は自分の思う情けない部分を話した。

「情けない話だよ。自分でどうにかできないから。千穂ちゃんに協力してほしい」

「ええ、私に出来ることでしたら」

「だからもう少し、恋人らしくしても構わない?」

「そこへ、どう結びつくんですか」

「本当に付き合っているとわかれば、向こうも馬鹿らしくなるんじゃないかと思うわけ」

 だから、このまま付き合おうかって言ったのか。
 やっと理解が追いついて、合点がいく。
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