恋人のフリはもう嫌です
部屋を出たすぐの扉がトイレだからと、説明を受け、よろよろと立ち上がる。
部屋を出ると、玄関までにいくつか扉があった。
扉の数から想像すると、1LDKか、2LDKだ。
広くていいなあ。と、羨ましい気持ちで扉を開けると、そこはトイレではなく寝室だった。
いけない。
やってしまった。
そう思いつつも、彼の部屋は彼に抱きしめられた時と同じ匂いがして、ドキドキする。
ベッドの脇に本棚があるくらいの、シンプルな部屋。
彼らしいなと思い、扉を閉めようとした視線が、見つけなくてもいいものを感知して止まる。
彼のベッドの下に廊下からの光を反射した、なにか。
どうしてか胸騒ぎがして、恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。
パンドラの箱を、人はどうして開けてしまうのだろう。
私だって、見て見ぬ振りくらいできたはずで。