恋人のフリはもう嫌です

 部屋を出たすぐの扉がトイレだからと、説明を受け、よろよろと立ち上がる。

 部屋を出ると、玄関までにいくつか扉があった。

 扉の数から想像すると、1LDKか、2LDKだ。
 広くていいなあ。と、羨ましい気持ちで扉を開けると、そこはトイレではなく寝室だった。

 いけない。
 やってしまった。

 そう思いつつも、彼の部屋は彼に抱きしめられた時と同じ匂いがして、ドキドキする。
 ベッドの脇に本棚があるくらいの、シンプルな部屋。

 彼らしいなと思い、扉を閉めようとした視線が、見つけなくてもいいものを感知して止まる。

 彼のベッドの下に廊下からの光を反射した、なにか。
 どうしてか胸騒ぎがして、恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。

 パンドラの箱を、人はどうして開けてしまうのだろう。

 私だって、見て見ぬ振りくらいできたはずで。
< 82 / 228 >

この作品をシェア

pagetop