恋人のフリはもう嫌です


 ドッドッドッと、嫌な速さで高鳴る鼓動。

 拾い上げてみると、それはピアスだった。
 流線形が印象的な、猫なら確実に戯れつくデザインの。

 これは宣戦布告?
 今も関係が続いているとでも言いたいの?

「勝手に入ってはダメでしょう」

 冷ややかな声を聞き、手にしていたピアスをグッと握りしめて体を固くさせる。

「私以外の人は、入れるんですね」

 こんな不満をぶつけられる間柄じゃない。
 わかっているのに、抑えられない。

「なにが言いたい」

 腕を掴まれ、問いかけられる。

 いつもより低い声を出されたって、怖くない。
 怖いのは、きっと彼の周りにいる女性の影。

 振り向いて、睨み返したつもりの目から勝手に涙があふれた。
 慌てて俯いても、涙は止まらない。

「すみません。泣くつもりじゃ」

 震える声は、格好がつかない。

 ため息が聞こえ、こんな面倒な女の代表選手みたいな真似……と思ったところで、目の前が真っ暗になった。

 彼が私の体に腕を回し、抱き寄せたのだ。
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