恋人のフリはもう嫌です

「面倒くさいよな。女に泣かれるのって」

 彼の言葉が、胸に刺さって痛い。
 彼の温もりと、言葉の殺傷力との差に混乱する。

「それなら、離してください」

 涙に濡れ、揺れる声が情けない。

「困ったことに、今は離したくない」

「おっしゃっている意味が」

 彼は回していた腕に力を込め、私を抱きしめ直す。

「千穂ちゃんの涙は、放っておけない」

 思わぬ優しい囁きが、涙を助長する。
 だって、面倒だって、たった今。

「私が女の分類に入らないから、ですか」

「そういう一見かわいくない言動をするから、放っておけないの、かな。俺、重症だから」

 彼が腕を緩め、私の顔を覗き込むと、そっと唇にキスをして「ハハ。しょっぱい」と笑った。
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