恋人のフリはもう嫌です
「寝室に入られると襲いたくなるから、やめなさい」
嗜めるように言う彼の言葉は、今の私には火に油だ。
「私のことは、襲わないじゃないですか」
肝心なところではだんまりを決め込んでいたくせに、こんがらがりそうな場面で流暢にセリフを滑らせる口先が憎らしい。
彼の表情が、固くなったのがわかった。
「恵梨香に、なにか言われた?」
なにか言われる以上の、と言いたい気持ちを押し留めた。
グッと押し黙り、唇を噛む。
彼の言葉が、皮肉にもピアスの持ち主を確定させてしまった。
戸田設備、営業。久保 恵梨香さん。
やっぱり彼は、久保さんと関係があったのだ。
以前なのか、今もなのか。
彼は自分のしでかしたミスに気づかぬまま、考えを口にした。
「俺、昔はその場限りの軽い付き合いを好んでいたから、それを非難されると痛い」
「痛い、んですか」
「まあ。弁解はできないよね。過去は変えられないし」