恋人のフリはもう嫌です

教えたくない

教えたくない

西山透哉side

　久しぶりの健太郎とのサシ飲みは、思いの外、酔いがまわった。
　彼女といる時に酒に逃げるのが嫌で、近頃アルコールを避けているせいかもしれない。

　健太郎が、珍しく真面目な顔をして言う。

「彼女はどうするんだ。受付の」

「ああ、言い寄られない程度には」

「千穂ちゃんに、危害を加えないんだろうな」

「させるかよ。いい加減、釘を刺しておこうかとも思っている」

「そうか」

　グラスを傾ける健太郎を、白々しく思いながら見つめる。

　こいつが俺に頼み事をしてくる時は、大抵が厄介事で。
　千穂ちゃんの件を、打診された時に気づくべきだった。

「で、いつするんだ。結婚」

「ああ、まだプロポーズしたばかりだから、一年後くらいか」

　健太郎にはちゃっかり恋人がいて、その女性とこのたび結婚するという。
　その報告に呼び出されたのだ。

　千穂ちゃんはどうするんだ。
　喉元まで出かかった質問を、こいつには投げられない。

　彼女の想いも知らなければ、こいつは俺が千穂ちゃんと付き合っていると思っているわけで。