恋人のフリはもう嫌です
健太郎さんは、悪戯っぽい顔をさせ言う。
「透哉ってさ。酔っていると、いつも以上にフェロモン漂わせるから困って」
「はあ」
フェロモンは常に出している。
注意深く接しないと、溺れてしまうほどに。
「勝手に女性が家について行ったりね。だから千穂ちゃんを呼んだのは、護衛も兼ねて」
「私、武術には明るくないですよ」
「ハハ。あいつが言うように、ホント真面目」
「だいたいどうして、私が呼び出されるんですか。倒れたりしたら私は無力です」
「背中を押してやっても、いいかと思って」
健太郎さんが意味深に微笑むものだから、不自然にならないように視線を逸らす。
私が片想いしていると、健太郎さんにはバレているかもしれない。
「もう少し、酔いをさましたら連れ帰ってやって。朝帰りになっても、お父さんには黙っててあげるから」
からかうような心遣いが恥ずかしくて「早く帰ったらどうですか」と冷たくあしらった。