恋人のフリはもう嫌です

「ここは俺が奢るよ」と帰って行った健太郎さんに甘えて、彼が帰る前に飲み物を注文させてもらった。

 頼んだのは烏龍茶。

 食事は済ませていたし、私までへべれけに酔ったら、西山さんを送り届ける任務は遂行できなさそうだ。

 腕をテーブルに置き、その上に顔を乗せる西山さんの横顔を見つめる。
 目を閉じていても長いまつ毛に、スッと通った鼻梁が美しい。

 ううん。目を閉じているからこそ、じっくり見られる。
 これほど無防備な彼を見る機会はないから、貴重だ。

 薄い唇は色気が漂っている。
 触れたい衝動に駆られ、手を伸ばそうとして、引っ込める。

 そして思う存分見つめていると、彼の唇が微かに動いて言葉を発した。

「なんであいつには気安いの」

「え、あいつって」

「健太郎」

 薄目まで開けられ、まだ正体が怪しい西山さんと目が合い、ドキリとする。
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