エリート上司を煽ったら極情愛を教え込まれました
「お、お父さん?」

私が慌てて話を止めようとするが父は続ける。

「『どんなに素晴らしい人だとしても私は嫌です』ってきっぱり言ったよな。なあ母さん」

「言いましたね」

もう、みんな意地悪なんだから。

「もう、全言撤回。私は洋介さんがいいんです。誰がなんと言おうと洋介さん以外の人と結婚しません」

すると父は母と洋介さんをみて「だそうだ」と言って笑った。

もうみんな意地悪なんだから。

父はひとしきり笑うと立ち上がった。

「母さん、そろそろ行こうか」

「そうですね」

「え?もう帰るの?」

こんなスイートルームにいるのに?

すると洋介さんが私の手をとった。

「あとは二人で仲良くやんなさい。どうせ明日も代休とってあるんだろ?」



父と母は私と洋介さんを残し帰っていった。

すごくうれしいのに悔しい気持ちもある。

「ずるい!なんで今まで黙ってたの?」

「なんでだろうな〜。でもそれは君が一番よくわかってるんじゃないのか?」

洋介さんは私を優しい眼差しで見つめると話を続けた。

「君は自分が谷崎泉という名で入社するのを嫌がった。それは社長令嬢という特別な目で見られたくなかったからだろ?」

私は頷いた。

「俺も同じだ。俺はTコーポレーションの堤洋介ではなく、ただの堤洋介として見て欲しかったんだ」

そうか。

私も洋介さんも同じ気持ちでいたんだ。

だからお互いの苦しい思いも共有できたんだ。
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