エリート上司を煽ったら極情愛を教え込まれました
一列に並んでいるものの二人はしっかりと手を繋いでいたのだ。

ぎこちない感じではない。

しっかりと手が離れないような繋ぎ方に二人の関係の深さや長さに気付く。

その途端、ドクドクと胸の中で不快な鼓動が波を打つ。

しかも、二人が案内されたのは私の後ろの席だった。

さっきまで楽しみにしていたパンケーキなどどうでも良くなる。

「私、ここのパンケーキ大好き」

メニューを見ながらはしゃぐ女性。

可愛らしい、高めのトーンは私より明らかに若いと感じた。

「毎回飽きもせずよく頼むな」

間違いなく明久さんの声だが、しかも『毎回』という言葉がさらに私を不安にさせる。

だがそれ以上に驚いたのは彼の話すトーンや口調が私の時と明らかに違っていたのだ。

私には穏やかで優しい言い方だけど、彼女に対しては男らしいというか……きっとこれが本来の彼なのだと思わせるような砕けた感じ。

もしかして相手によって話し方を使い分けている?

だけどこんなのはまだ序の口だった。

二人がオーダーを済ますと、話し始めたのは女性の方だった。

「ところで〜、本当に結婚しちゃうの?」

つまんなそうに尋ねる女性に明久さんはため息混じりに「ああ」と短い返事をした。

「つまんない〜」

女性の甘ったるい声が私をざわつかせる。

「ごめんな。本当は真子と結婚したいけど……」

私はその言葉を聞き逃さなかった。

私と結婚前提と言っておきながら別の人と結婚したい?

だったらなんで断らないの?

別に私たちは相思相愛ってわけじゃない。

なんなら今この場で全てなかったことにしたって……。

「政略結婚なんでしょ?」

使い慣れていないというか言葉そのものに馴染みのなさを感じさせる女性の言い方に緊張でガチガチなった私の肩の力がガクッと落ちた。

< 5 / 175 >

この作品をシェア

pagetop