エリート上司を煽ったら極情愛を教え込まれました
「こちらが会場になります」

日曜日。私は明久さんと明久さんのお母様、そして私の母の四人でクリスティンホテルにいた。

「このぐらいの広さがあれば十分ね」

主導権は明久さんのお母様だ。

料理や引き出物、いろんなことに首を突っ込みたがる。

だけど今の私には逆にありがたかった。

愛人のいる明久さんとの結婚は完全なる政略結婚。

この結婚に何を夢見て、何を望めばいいの?

結婚式で頭を悩ます時間があったら、結婚までも残り少ない自由を私は謳歌したい。

それが率直な思いだった。

だから私はこの親子の前で何に対しても「はい」という従順は婚約者を演じていた。

「ところで泉さん?」

「はい」

「ドレスはもう決まったのかしら?」

本当は何も決まってない。

律ちゃんと一緒に見に行ったものの試着することはなかった。

すると誰かのスマホから着信音が流れてきた。

電話は明久さんのスマホだった。

明久さんは画面を見た途端、慌てた様子で「ちょっとごめん」と言って席を外した。

その表情はよそよそしいというか、決してみんなのいる前では電話に出れない相手からなのだろうというのが顔に出ていた。

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