優しい温もり【完結】
― 数時間後 ―

「美優、そろそろ時間。」

その声に時計に目をやると 21:30を指していた。
あっという間に過ぎた時間。

私がバイトを始めた時の条件
どんなに忙しくても22時までに上がること。(私は何時までだっていいのに・・・・・)
周囲には18才で通すこと。(私の実年齢を知っているのは店長のみだ。)

それを守れない時は 即辞めることって言われた。
そんな事情を知っている店長は、いつも時間を気にしてくれていた。

「おつかれさまでーす。」
バイトも終わり。 店を後にしようとしていた。


人影と思った瞬間、誰かにぶつかった。

「す・・・すいません。」
顔を上げようとした。

「お前は、前をみて歩けよな。」
顔を上げるより先に聞こえてきた声。

う~ん? この声は・・・・・ 恐る恐る顔を上げた。

「・・・・・ゲッ・・・・・・だっ・・大ちゃん」
目の前にいたのは、兄 ”大樹” だった。

「”ゲッ” てなんだよ。 お前、今日上がりだろ?
だったら少し付き合え。」
少し不機嫌そうな大ちゃんに引っ張られて店へ逆戻り。

私、一言も 付き合うなんて言ってないのに。
いつも自分勝手なのだから・・・・。
我が兄ながら嫌になる。

でもこの兄には逆らえない。

母が居なくなった今、私の保護者は兄だ。

それだけではない・・・・。
昔から兄だけは、私を甘やかして、可愛がってくれた。
私の本心を聞こうとしてくれた。

いつだったか・・・私が小さかった頃、風邪をひいて熱っぽい日があった。
母はいつもの様に、彼氏に夢中。
私の変化など気づきもしない。
母に嫌われるのが怖かった私は、ずっと平気なふりをしていた。

でもただ一人 大ちゃんだけは気付いてくれた。
その日はずっと側に居てくれた。
私の変化に、いち早く気付いてくれる人だった。


自分勝手な兄だけど、私の欲しい言葉や温かい笑顔をくれるから
大好きだったりする。


でもこれは、本人には内緒。

だって恥ずかしいんだもん。



そんなこんなで、逆らえる理由もなく
大ちゃんと一緒にご飯を食べていた。
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