innocent


「いつも、悪いわね」


そうやって母は笑う。
笑うと言っても申し訳なさそうに笑うだけで、家にいた頃の母の笑いはこんな笑いじゃなかった。

「子ども、いるんだからさ。無理しないでよ」

「うふふ。随分と年が離れた兄弟になっちゃうわ。ごめんね」

「別に。」


ほんとは言うと、『兄弟』というものに憧れを持っていた。16年間一人っ子だった僕には、友達の話を聞いて兄弟の知識をつけるしかなかった。

弟や妹がいれば

上が欲しいと言う。


姉や兄がいれば

下が欲しいと言う。


上にも下にもいれば、煩わしそうに一蹴する。だけどそんな姿は、僕には好きで好きでしょうがない、という風に感じた。
兄弟がいないからだろうか。一人っ子の僕には、羨ましくてしょうがない「想い」だった。


「もう少しで産まれそうなの。ほら、時々中でトントン、ってするの。」

「でもさ、歳考えて気を付けないと。よくもまぁ、16年もたって…まぁ、頑張ったよね」

「うるさいわね!私まだまだ若いの。これでもまだ36だっての!」

「はいはい。わかってるから。じゃあ行くね」

「えぇ」

「くれぐれも病院では安静にね、母さん」


「わかってるわよ」


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