innocent


「こーら小絵(さえ)ちゃん!!また勝手に病院脱け出してっ」

「だって退屈なんだもーん!看護師さんすっごーく怖い顔になってるよ。般若みたいっっっきゃー!」

「小絵ちゃんっっ!!」




廊下まで響いてくる騒がしい声に、なんだか気になりつつ、悪いと思いながらも覗かせてもらう。


そこには僕とほとんど変わらない年齢の女の子が思い切り笑っていた。
なんていうか、

今が楽しくてしょうがないって感じで。



どうしてそんなに笑えるんだろう。

そんなに楽しいことが病院にある?



自分の笑顔とは正反対の彼女に、興味がわいた。






「あれ?」

「え?」


彼女は気付いたようでこちらに向かって手を振る。

手を振るわけにもいかず、小さな会釈で彼女に返した。

「そんなとこでいないで、入ってきてお話しませんか」

とよく響くその声で僕を誘う。

僕の足は弾かれたようにその場を歩き出し、彼女のいる病室へと入ってきてしまった。





もう、引き戻せない。



あれ?変だ。

いつもなら誘いを愛想笑いで返すのに、それは彼女に通用しない気がして思わずやめてしまった自分がいた。
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