転生人魚姫はごはんが食べたい!
 歌は聴かせる相手がいなければ意味はない。私に残された特別な力といえば、あとは人間よりも泳ぎが速いことくらいだ。

「お邪魔しまーす。はいこれ水の差し入れ」

「エリク、来てくれてありがとう!」

 普通に面会も許されているし、拘束はされてしまったけれど軟禁というところかしら?

 私は友人の来訪を喜んだけど、エリクは不機嫌そうに眉をしかめた。

「それ嫌味? 僕は君のこと見捨てたんだけど」

「エリクまで一緒に捕まる必要ないじゃない。あれでよかったのよ。貴方は何もしていないし、というか私もよね!?」

「奥様っ!」

 エリクに続いて扉を蹴破る勢いで入室してきたのはニナだった。

「な、何が起こって、どうしてこんなことに!?」

 ニナに聞くとあのお茶は旦那様から渡されたものらしい。私に飲ませるように指示されたらしいけれど、つまり旦那様もあちら側ということ? でも私のことは忘れているみたいだし、いえ約束は憶えているみたいだけれど……

「もうわけがわからないっ!」

「ちょっと大丈夫?」

 エリクが心配してくれる。取り乱しかけた私だけど、自分よりも取り乱している相手を見ると少しだけ冷静にもなれた。こんなことになってしまってニナの方が大変そうだったから。

「あああっ……どうしてこんなことに!? イデットさんが留守にしている間にこんな、大変なことになってしまうなんて……わ、私、どうすればいいんでしょうか!?」

「知らないよそんなの! 僕だって聞きたいんだから! なのにジェス君はあの人と海に出ちゃうしさ」

「え、海って、どうして海に?」

「なんか二人で行きたい場所があるんだって。誰も止めようとしないし、ホントみんなどうしちゃったの!?」

「でも旦那様、私と交わした約束は憶えていてくれたのよ。だから私、もう一度旦那様と会ってちゃんと話したい。そのためにはここから出たいんだけど……」

 私は協力者となってくれる可能性がある二人の反応を窺った。反対するのなら眠らせてでも出て行く必要があるからだ。

「僕さ、さっきのジェス君は人が変わったみたいで怖かった。僕はいつものジェス君に戻ってほしいよ。君のことが大好きで仕方がないって、締まりのない顔を晒してるジェス君の方がいいよね」

「結構酷いこと言ってない?」

「そうかもね。だから内緒だよ?」

「任せて」
< 118 / 132 >

この作品をシェア

pagetop