転生人魚姫はごはんが食べたい!
その言葉通り、力いっぱい抱き着いてやる。あの日彷徨っていた両腕でしっかりと抱きしめれば、旦那様ももう一度引き寄せてくれた。手放すつもりはないと言ってくれているようで嬉しい。
「私はたとえこの命が尽きたとしても来世があると思うのです。ですからこの人生は旦那様と一緒にいるために、そしてこの世界で美味しいものを食べるために使いますわ。ほら、後悔なんて微塵も必要ないのです!」
「ありがとな、エスティ……」
パチパチパチ――
頭上から聞こえたのは乾いた拍手だ。
「そろそろ上がっていただいてもよろしいかしら?」
言葉と一緒に縄梯子が下ろされる。もちろん下ろしてくれたのは海の魔女で、警戒するなというほうが難しい。
「……これでよろしいかしら?」
無言で睨み付けていると海の魔女はその場に短剣を落とし、自らは船首の方へと歩いて行く。そしてたっぷりと距離を取ってから、もう一度早くと促した。
「どうします?」
私は旦那様に判断を仰いだ。
「ひとまず俺が先に上ろう」
「わかりました。いざとなれば私が泳いで岸まで連れて行くプランもありますから、安心して下さいね!」
「そりゃ頼もしい」
後に続いて梯子を上り、最後は先に上っていた旦那様が引き上げてくれた。海の魔女の姿を確認すると、のんきに歌いながら腰かけている始末。私たちが近付いてくるのを目に止めると、またあの心のこもっていない拍手を繰り返す。
「王子様とお姫様は幸せになりました? おめでとう、めでたしめでたしなのね。まるで私一人が悪者のような展開ですけれど、王子様は後悔されていたのでしょう? 本当にこのお嬢さんと幸せになれると思っているのかしら……」
旦那様は私の肩を抱く。その動きには迷いなんて感じられなかった。
「もう迷わねーよ。エスティは俺が幸せにする」
「そう……わかりましたわ」
ふわりと力を抜いた海の魔女の身体は後ろへ傾いていく。最後に穏やかに笑ったように見えたのは気のせい? 手を伸ばす間もなく、海の魔女は船から落ちていった。
二人揃って海を覗き込んでから、しばらく経って海面に現れたのは緑の人魚だ。顔立は海の魔女と同じなのに、黒かった髪は爽やかな薄緑へと変化している。旦那様と同じ、綺麗な人を惹きつける色だ。目立たないように染めていたのかもしれない。
「私はたとえこの命が尽きたとしても来世があると思うのです。ですからこの人生は旦那様と一緒にいるために、そしてこの世界で美味しいものを食べるために使いますわ。ほら、後悔なんて微塵も必要ないのです!」
「ありがとな、エスティ……」
パチパチパチ――
頭上から聞こえたのは乾いた拍手だ。
「そろそろ上がっていただいてもよろしいかしら?」
言葉と一緒に縄梯子が下ろされる。もちろん下ろしてくれたのは海の魔女で、警戒するなというほうが難しい。
「……これでよろしいかしら?」
無言で睨み付けていると海の魔女はその場に短剣を落とし、自らは船首の方へと歩いて行く。そしてたっぷりと距離を取ってから、もう一度早くと促した。
「どうします?」
私は旦那様に判断を仰いだ。
「ひとまず俺が先に上ろう」
「わかりました。いざとなれば私が泳いで岸まで連れて行くプランもありますから、安心して下さいね!」
「そりゃ頼もしい」
後に続いて梯子を上り、最後は先に上っていた旦那様が引き上げてくれた。海の魔女の姿を確認すると、のんきに歌いながら腰かけている始末。私たちが近付いてくるのを目に止めると、またあの心のこもっていない拍手を繰り返す。
「王子様とお姫様は幸せになりました? おめでとう、めでたしめでたしなのね。まるで私一人が悪者のような展開ですけれど、王子様は後悔されていたのでしょう? 本当にこのお嬢さんと幸せになれると思っているのかしら……」
旦那様は私の肩を抱く。その動きには迷いなんて感じられなかった。
「もう迷わねーよ。エスティは俺が幸せにする」
「そう……わかりましたわ」
ふわりと力を抜いた海の魔女の身体は後ろへ傾いていく。最後に穏やかに笑ったように見えたのは気のせい? 手を伸ばす間もなく、海の魔女は船から落ちていった。
二人揃って海を覗き込んでから、しばらく経って海面に現れたのは緑の人魚だ。顔立は海の魔女と同じなのに、黒かった髪は爽やかな薄緑へと変化している。旦那様と同じ、綺麗な人を惹きつける色だ。目立たないように染めていたのかもしれない。