転生人魚姫はごはんが食べたい!
「けれど私たちも人間と争いたいわけではありません。だから助けを乞うのです。逆に考えてみてほしいのだけれど、私たちを味方につけることほど海で頼もしいことはないはずよ。賛同していただけるのなら積極的に海で困っている人間を助けることを約束します。ラージェス様も、海を敵にしたくはないですよね?」

 これはラージェス様たちの国が貿易によって発展していることを見極めたうえでの挑発。航路という手段を封じられて困る人間を相手にしなければ意味はない。

「そうそう! 言っておくけれど、私たちはたまたまラージェス様たちを交渉相手に選んだだけですわ。もし断られてしまったら、そうね。また他の人間を相手に交渉しないといけないわ。例えば、別の国の人間だとか」

「随分と人間の事情に詳しいんだな」

 誰だって自分の利益が惜しいはず。それを他国に奪われるとなれば尚更だ。

「かいかぶりですわ。それに、なにもこの場で頷けと言うつもりはありません。無事国にお帰りいただき、この話を上の方に伝えてほしいのです」

「いや、その必要はない」

「まあ! この状況で、自力で国に戻れると思っているのかしら? それともいつ来るかもわからない助けを待つとでも?」

 漂い始めた不穏な空気にラージェス様は盛大に慌てていた。

「まてまて! 話は聞かせてもらったって意味だ! もちろん俺の一存だけで頷くことは出来ないが、正直貿易が盛んな我が国には願ってもない話だからな。説得次第でみんなも頷いてくれるだろう。無事国に帰ることが出来たのなら前向きに検討させてもらう。約束するぜ!」

 えっと、この言い方って……

「もしかしてラージェス様って、結構偉いお役目の人……だったりします?」

 当初、私はこの交渉こそが大事件だと思っていた。けれど人間たちにとっての大事件はすでに起こっていたのだ。

「一応、リヴェール国の王子だが」

「王子が遭難して行方不明なんて大事件じゃないの!!」

「言ってなかったか?」

「聞いてません!」

「ラージェス・イストリアだ。よろしくな」

 よろしくじゃないですよね!?

「しかし一つ問題がある」

 深刻な顔で切り出したのはラージェス様だ。
 いえもっと慌てて下さいね王子様っ!?
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