転生人魚姫はごはんが食べたい!
 私は時折人間の町にも赴くようになった。
 薬を作ろうとしてもね、どうしても海の世界では手に入らない材料もあるわ。薬の力に頼ればいつか本当の人魚に戻れるかもしれないと、そんな馬鹿げたことを考えていたの。

 そして私は数年ぶりにあの子を見つけてしまった。

 手放したはずの息子は随分と立派になっていて、私は思わず駆け寄りそうになったわ。とっさに衝動を殺して物陰に隠れたけれど、驚いた。私はまだあの子を愛していたのね。会いたいと望む心が残っていたことに安心したの。
 それなのに合わせる顔がないというのはこのことね。いくら理由を重ねたとしても私が家族を捨てたという事実は変わらないのよ。今更何を言えたというのかしら……

 町で話を聞くうちに、あの子がこの町を治めるようになったことを知った。あの子は私のことなんて覚えていないでしょうけれど、それからは顔を見られないようにローブで身体を覆ったわ。

 またしばらく時が経って、今度はあの子が結婚したことを知った。
 息子のお嫁さんですもの、どうしたって興味は尽きなかったわ。どんな人かと隠れて姿を見たけれど、なんてこと……あの人は駄目よ!

 お相手は可愛いお嬢さんだった。息子の隣が良く似合う、金髪に青い瞳のね。
 でもどうしてお嬢さんなの? どうして人魚を選んでしまったの!? 海の世界に暮らしていれば女神に愛されたという人魚姫の噂は耳に入るわ。海の王の愛娘、女神に愛された青い瞳。そんなお嬢さんが人間の生活に絶えられる?
 あの子も私と同じ。すぐ嫌になってしまうに決まっているわ。そうしたらあの子は……また一人になってしまうのよ。

 私には二人が幸せになる結末が見えなかった。

 二人を酷い言葉で傷つけて悪者を演じたわ。息子を利用して、お嬢さんの真意を確かめようとした。
 お嬢さんは追って来たわね。私の予想より随分と早くて驚いたのよ。
 私がどれほど嬉しかったことか、お嬢さんにはわからないのでしょうね。ええ、それでいいのよ。これが私が勝手にやったことですもの。むしろ憎んでくれていい。私はただ、あの子が幸せであればそれでいいの。


 結局、弱かったのは私だけみたいね。
 お嬢さん――エスティーナさんは強い人だったわ。エスティーナさんなら、最後まで息子の手を離さずにいてくれるでしょう。
 見えなかったはずの未来を見せてくれてありがとう。私は遠く海の底から二人の幸せを祈っているわ。


 さようなら。
 どうか、幸せにね……

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