転生人魚姫はごはんが食べたい!
「そういう問題ではございません!」

 私たちが口論しているのと同じように人間たちもまた揉めているようで、海は一瞬にして騒がしくなった。

「本気ですかラージェス様! 人魚を妻に迎えるなどと!」

 まあ、そうなるわよね……。

 どちらの側にしたって素直に喜べることとは思えない。私たちは人間になることに代償を伴い、彼らにしても王子の妻が人魚というのは体裁が悪いだろう。王子様にはもっと有益な結婚相手がいるはずだ。たとえば人間の国のお姫様とか。

「姫様! どうかお考えを改めて下さい!」

「どうして? 私の身一つで海の平和が守れるのならいいことしかないじゃない」

 にっこりと微笑む私はすでに嬉しさが抑えきれていない。涙ぐむ仲間には大変申し訳ないのだけれど、本当に申し訳ないのだけれど……私には陸でごはんが待っている。

「王子様こそ私でよろしいの? 見てお分かりの通り、私、人魚ですわ」

 実のところ人魚が人間になることは簡単だ。けれどとびきりの代償がつきまとうため、よほどのことが無い限り人になろうと考える者はいない。

「それがどうした。俺はお前がいいんだ」

「ならば私はラージェス様に嫁ぎましょう」

 清々しいほどの肯定に釣られ、私もきっぱりと答えた。

「姫!?」

 戸惑う仲間たちの声を聞きながら、私は旦那様となる人に告げる。

「美味しい物、たくさん食べさせて下さいね。旦那様」

 私は抑えきれない喜びが表情に溢れ出るのを感じていたけれど、ラージェス様は驚いたという表情のまま固まっていた。

 ――て、ラージェス様が提案したんじゃないですか!

 とはいえ私を取り囲む仲間たちも未だに考え直せと言い続けている。

「姫様! きちんと理解しておいでなのですか!? 人間になるということは……」

 仲間たちにとってその先は口に出すことすら躊躇わせるらしい。私にとっては大きな問題ではないと思うのだが。

「覚悟は出来ているわ。人間の動向を監視する役目はどうしたって必要になるし、この交渉を提案したのは私よ。なら、私が陸に向かうのが筋というものでしょう?」

「なんと、なんとご立派な!」

 さすがにそこまで褒められると裏がある身としては複雑だ。複雑なのは私だけではなくてラージェス様も同じようだけれど。
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