転生人魚姫はごはんが食べたい!
「未練はないと言ったでしょう。それにあの人、ラージェス様は悪い人には見えなかったもの」

 レイシーの手前、いきなり抱き着いたあの所業、今だけは忘れてあげるわ!

 あれほど熱烈に助けられたことに感謝してくれたんだもの、悪い人ではないと思う。リヴェール国に到着してからも、ラージェス様からは約束を守るという意思が感じられた。

「嘘! エスティ姉さんはすぐに人間の肩を持つのよ! 何かあると悪い人間ばかりじゃないって、そればかり!」

 仕方がないのよ、レイシー……だって私、元人間なんだもの。それは判定も甘くなるわ。

「確かに、何度も言ったわね。そしてこれも何度も言ったけれど。人魚だから嘘をつかないというわけじゃあないでしょう? 人間も同じよ。みんなが言うほど、全員が怖ろしいってわけじゃないと思うの」

 悲しいことだけれど、海の世界にだって偽りは存在する。だから人間だけを悪く言うのは間違っている。信じてみてはどうかと私は説得を続けてきた。

「エスティ姉さんは王様になることも出来たのよ。それなのに女神様の怒りをかってしまったら……」

「大丈夫よ。陛下にも話したけれど、この瞳が愛された証だというのなら、青い瞳を持つ私こそが適任じゃない。ちょっとくらい女神様に嫌われたって、プラマイゼロだと思うの!」

「なあに、それ? エスティ姉さんのお話は、時々難しいの……」

「私なら大丈夫ってことよ。それに、私は王様には興味ないわ」

「せっかく青い瞳なのに?」

 そう呟くレイシーの瞳は金色だ。人魚の瞳は金色に生まれるのが普通。けれど稀に海の青を宿して生まれる者がいる。それは海に愛された証、青い瞳を持つ者こそが海の王になる資格と力を保持しているのだとか。
 私は今まさに時代の王への資格を返上したところだ。

「王になれる人は私以外にもいるわ。それにお父様は現役なのですから、私の力は今の海には必要ないと思うの。それよりも、私は自分の力を発揮出来る場所で生きるべきだわ」

 丁寧に説き伏せるとレイシーは急に俯いてしまった。

「私のせいでしょう? マリーナ姉さんのこと……」

 ああ……
 これがレイシーが本当に伝えたかったことなのね。
< 20 / 132 >

この作品をシェア

pagetop