転生人魚姫はごはんが食べたい!
 一年前に突如として姿を消した私たちの姉マリーナ。
 大人しそうな外見でありながら、マリーナ姉さんは好奇心旺盛な人だった。
 姉さんが姿を消してから一日目はみんなで海中を探し回った。二日目になっても姉さんの姿はどこにも見当たらなくて、やがてみんなは諦めてしまった。

 ああ、マリーナは人間に捕まってしまったんだって。

 仲間たちは仕方がないと言った。父も姉たちも、家族でさえも口を揃えて仕方がないと言う。
 けれどそれは私にとって身近な存在を失った初めての出来事だった。もちろん妹であるレイシーも同じように。
 レイシーは毎日のように泣いていた。泣きじゃくる妹を前に、私はみんなと同じように仕方がないとは言えなかった。
 嘆き悲しむ妹に何が言える?
 妹のために私が出来ることは何?
 そう考えた時、元人間の私なら何かを変えられるかもしれないと思った。
 私がこの世界に生まれ変わった意味があるとしたら、この時だって、心から感じたの。

 でもそれは私の勝手な覚悟、幼い妹に理由を背負わせるつもりはない。

「私はもういいの! もうエスティ姉さんを困らせたりしない。私も仕方がないって笑うから、だから行かないで! 私のせいでエスティ姉さんまでいなくなるなんて嫌よ!」

 確かにマリーナ姉さんのことは人間との交渉を提案した切っ掛けの一つ。けれどあの時、ラージェス様のプロポーズに即答をさせたのはまた別の理由だ。

「私はレイシーのために行くんじゃないわ。私は自分のために行くのよ」

「嘘!」

「嘘じゃないわよ」

「エスティ姉さんは死ぬのが怖くないの!?」

 怖くないかと聞かれれば、そりゃあ怖いけど……

「終わりが来るのって案外普通のことだと思うのよ。確かにレイシーたちほど長い時間を生きることはもう出来ないけれど、それまでの間、たくさん会って話しましょう。私、飽きられてしまうほどたくさん帰ってくるわ。だから今は、どうか笑顔で送り出してほしいの。私は不幸になりに行くわけじゃない。陸にだって楽しい事や、美しい物がある。幸せだってきっとたくさんあるわ。だから笑ってほしいの。私は大丈夫だから、ね?」

 顔を上げたレイシーの瞳から涙が零れた。レイシーはその涙を拭い、ぎこちなくも笑顔を作る。

「エスティ姉さん、狡いわ。そんな風に言われたら私、送り出さないわけにはいかないじゃない!」

「ごめんね」

 謝れば、今度は私が泣きそうになる。
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