転生人魚姫はごはんが食べたい!
「……いいの。私、もう、わかったわ……。聞き分けのないことを言ってごめんなさい。行ってらっしゃい」

「ありがとう。レイシーにそう言ってもらえて嬉しい」

 みんな悲しそうな顔をしていたけれど、本当は笑顔で送り出してほしかった。でもこれ以上、私の我儘を押し通すわけにはいかないと思った。だから妹がこうして送る出してくれることが嬉しくてたまらない。

「エスティ姉さん、私、本当は寂しかったの。だから我儘を言って困らせて……ごめんなさい」

「我儘だなんて思わないわ。私、嬉しかったもの。見送りに来てくれてありがとう。私だってレイシーと毎日会えないのは寂しいから」

 これからは家族も友達もいない場所で暮らす。唯一夫となるべき人は待っていてくれるだろうけど、それさえも愛のない結婚だ。

「たくさん帰ってきて! 私、待ってるから!」

 未だ涙の残る表情で微笑む妹には胸が痛むけれど、ごめんなさい。私の心はラージェス様にプロポーズされた瞬間に決まってしまったの。

 私は人間になって海の世界の平和に貢献致します。そして残りの人生を使ってこの世界の美味しい物を食べ尽くします!

 いつも遠く離れて海から眺めていたリヴェール国の港町。
 あらゆる国から船が集い、人や荷物が盛んに出入りする港はたとえ早朝であろうと活気づいている。
 荷物を積み込んでは慌ただしく旅立とうとする船。積み荷を下ろしてはのんびりと景色を楽しむ船乗りたち。船から降りると興味深そうに町並みを眺める旅人――
 この町を訪れる理由は人それぞれにある。けれど遠くからでも肌で感じられるほど、賑わいの声が途絶えることはない。
 そんな港町から海岸沿いに回り込めば静かな砂浜へと場面は変わる。白い砂浜に波が打ち付ける様子はリゾート地のパンフレットのような美しさで、今となってはその海で泳ぎ放題という贅沢をしている私がいた。
 砂浜の先には険しい岩肌を見せる崖がある。そこから視線を上げていくと、崖の上には立派なお城が建っている。
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