転生人魚姫はごはんが食べたい!
「当たり前のように誘ってしまったし、お前も平然と要求するものだから疑問に思うこともなかったが……飯は食うんだな」

「確かに人魚は食べなくても平気ですけれど、私はもう人間なのですから食事もしますわ。加えて私はこの国の一員となったのですから、早くこの国の味に慣れたいのです。もちろん食事だけではなく、習慣や文化にも」

「そうか。俺はいい奥さんを見つけたんだな」

 旦那様は優しく笑ってくれた。

「はい。私はいい旦那様に見つけてもらいました」

 そして私も、旦那様に褒められて悪い気はしなかった。だからこれは私の本心だ。この人となら、形ばかりの夫婦だろうと過ごしていけると思えた。

 私たちが微笑み合い、和やかな会話を続けているうちに食事の準備は着々と整えられていく。私は旦那様に微笑みを向けながらも視線だけは運ばれてくる料理に夢中だった。その一方で旦那様は何故か終始私のことを見つめていた。

 せっかく料理が来るのよ。私よりも料理を眺めていた方が楽しいと思うけれど……

 私はついに目の前にまで迫り、手を伸ばせば届く距離にある懐かしの料理をじっくりと見つめた。それはもう愛しい人を見つめるような眼差し――よりも熱心かもしれない。
 白い丸皿にはこんがりと焼き色のついたタルトのような品が乗せられている。三角形に切り分けられたそれは、本来ホールケーキのほどの大きさがあった物の一部だと推測した。

 円形のタルト生地を器として、具材を入れて焼き上げたものね。大きさから見て、おそらく六等分といったところかしら。しかも、しかもよ! これ、焼きたてじゃない!?

 室内には焼きたて独特の香ばしさが漂っている。それもチーズの。

 なんてタイミングで給仕されてくるのかしら。絶対美味しいに決まっているじゃない!
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