転生人魚姫はごはんが食べたい!
 旦那様ったら、とんでもない人だわ。見た目はチャラいくせに……いえとても失礼なんですけれど。それなのに一途だなんて聞いていないわよ!

 けれど思い返してみれば――
 幼い頃の思い出を現在まで引きずり、なおかつ一目見て私だと確信する執念。肌身離さず持ち歩いていた片方だけのイヤリング……もしかしなくても、とんでもなく一途に想ってくれていたのではないだろうか。

「さては旦那様は末っ子なのね! 上にお兄様が何人もいらっしゃるのでしょう?」

 そうそう。王位継承権を持つ人が他に何人もいて、末っ子は自分の手で身の振り方を考えなければならないとか!

「なんの確認かは知らんが俺は長男だ」

 それは王位継承権も高そうでいらっしゃいますわねえ!

「俺にはお前以外必要ない。エスティがいてくれたら、それだけでいいんだ」

 ふわりと笑う旦那様に私はたいして食べてもいないのに胃もたれを起こしそうだった。

 あ、甘い……

 こんなにも蕩けそうな台詞を、まさか自分に向けられる日が来るなんて想像したこともない。突然の事態に私は激しく混乱していたと思う。そのためまずは落ち着いて食事の続きをと旦那様に勧めていた。食べているうちに私も少しは冷静になるだろうと考えて。

「ところでお前は?」

「はい?」

「俺のことをどう思ってる?」

「ごほっ!」

「おい大丈夫か!?」

「……も、問題ありませんわ」

 至急水を取り入れ流し込むことで難を逃れた。まったく食事中には心臓に悪い話題だ。

「旦那様の発言の方が、よっぽど問題でもすもの」

「普通気になるだろ?」

「私、正直なのです」

「嘘つかれたくて聞いてるわけじゃねーよ」

「……いい人間、だとは思っていますけれど、でもそれだけですわ。私はまだラージェス様のことを知りま……その件に関しては、忘れしまったことは本当に申し訳なく感じていますけど! 私は旦那様、ラージェス様のことをほとんど知らないのです」

「なら、早く好きになってもらわないとな」

 んんっ!? どうしてそうなったのかしら!?

「……旦那様って、結構前向きでいらっしゃる?」

 運は悪そうだけれど……。
 私はまじまじと旦那様の顔を眺めてしまった。
< 43 / 132 >

この作品をシェア

pagetop