転生人魚姫はごはんが食べたい!
「不幸だって認めたら負け。これが俺の座右の銘だ。なあ、明日からも食事は一緒に食べようぜ。俺との食事は嫌か?」

「いいえ。楽しいですわ。私一人だと料理の名前もわからないんですもの。それに食事って、誰かと一緒の方が楽しいですよね。でもお忙しいのでしょう? 無理はしてほしくないのです」

 今日も忙しくしていたと聞いている。無理をしてまで私との時間を作る必要はない。そう説明したのだけれど、旦那様は不敵に笑ったように見えた。

「それは最初に謝っとく。悪いが約束は出来ない。多少無理することもあるだろうが、それでも俺はお前と一緒にいたい。たくさん同じ時間を過ごして、早く好きになってもらわないと困るからな」

 ――なんて、綺麗に笑ってみせるからっ!

 今度こそ私の頬は真っ赤に染まってしまった。恋愛感情を自覚してはいなくても、イケメンにときめくのとは別問題だ。

「困ったことがあればなんでも言ってくれ。遠慮すんなよ?」

 よほど頼られたいのか、また同じ質問を繰り返される。

「本当にこれ以上望むことなんて、今の私には思いつかないのです。だいたい、そんなに甘やかされていては私がだめ人間になってしまいますわ」

「やっと手に入れた愛しの妻だからな。たっぷり甘やかされてくれよ」

 とっさに飛び出す私の発言よりも、長年の想いを実らせた旦那様の方が一枚も二枚も上手なのは当然だ。

 くうっ……! 食事と一緒に飲みこむには向けられた感情が重すぎるわ! 付け合わせにしたって胃もたれよ!

 呑みこむ度にキッシュは重く喉の奥へと消えていく。こうして人間になって初めての食事は大変思い出深いものとなった。

 そんな濃い食事を終えてから、私は城中を連れまわされている。
 城の清掃を担当するメイド、私の世話を担当してくれる侍女。旦那様のサポートをする執事に側近のエリク様。はては厨房から庭師にまで紹介すると連れまわされ……

 ご丁寧に行く先々で愛しの妻と紹介されたんですが。その紹介いります!?
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