転生人魚姫はごはんが食べたい!
「だ、だってエリク様ばかり狡いです! 私だってケーキは好きなんです!」
豪華なケーキを食べさせてもらったばかりではあるけれど、ケーキは多種多様。特にエリク様を懐柔させるほどのケーキがどういった代物なのかはとても興味がある。
「そりゃいいことを聞かせてもらったな。だが一旦ケーキのことは置いとくぞ、いいな? 何か特別な理由でもあるのか?」
頑なに断り続ける私に旦那様は怪訝を深めている。
「あの頃の私は、幼く無知だったのです」
助けられた旦那様が自らを幼いと言うのなら、助けた私も同じはず。あの頃の私はまだ人魚世界のルールを知らずにいた。人魚にとって歌がどれほど特別な意味を持つのかを。
「人魚にとって歌は求愛の証」
「何?」
早口のため聞き取れなかったのだろう、もう一度聞き返される。私はさらに早く、一息で告げた。
「ですから異性に贈る歌は求愛の証なのですわ! 以上エスティーナ寝ます!」
「おいエス――」
話の途中だというのに扉の向こう側へと身を隠し、私は勢いよく閉めた。
ええ、ええっ! きっと言いたいことがあるのよね? でも聞いてあげません!
外には唖然と取り残された旦那様がいるのだろう。私は扉に背を付け足で踏ん張り、なんとか開けさせないようにと画策する。本当はソファーやタンスも使ってバリケードを作りたいところだ。
「エスティ!」
「なっ、何か!? 寝るったら寝ますから!」
扉越しに旦那様が名前を呼んでいようと今日はもうこの部屋から出るつもりはない。籠城する覚悟の私はさらに足に込める力を強くした。けれどいつまで経っても扉が無理に押されることはない。
「……お休み」
向こう側からは確かにそう聞えた。私自身もそう言ったけれど……。
「俺は、またお前の歌が聴きたいと思う。だから、いつかまた聞かせてくれたら嬉しい」
もう一度、お休みと告げて旦那様の足音は遠ざかっていく。
私はずるずると扉に背をつけたまま、みっともなくその場に座り込んでいた。
「……狡い人」
きっとこれも作戦の内なのでしょう?
そんな風に寂しそうに言われてしまったら、今すぐにでも歌ってあげたくなってしまう。
「子どもの頃の私は無邪気だったのよ。人魚の文化を何も知らずにいた頃の純粋さが憎いわね、って、あ……」
旦那様は何も知らない。知らない顔をして歌ってしまえば良かったのではない?
けれどもう遅い。次に歌披露したのなら、私のそれは求愛の意味を伴うだろう。
「ああーっ!! 私の馬鹿ぁー!!」
自分を罵りながら切ない気分で眠りに就いたのが人間一日目、最後の記憶だ。
豪華なケーキを食べさせてもらったばかりではあるけれど、ケーキは多種多様。特にエリク様を懐柔させるほどのケーキがどういった代物なのかはとても興味がある。
「そりゃいいことを聞かせてもらったな。だが一旦ケーキのことは置いとくぞ、いいな? 何か特別な理由でもあるのか?」
頑なに断り続ける私に旦那様は怪訝を深めている。
「あの頃の私は、幼く無知だったのです」
助けられた旦那様が自らを幼いと言うのなら、助けた私も同じはず。あの頃の私はまだ人魚世界のルールを知らずにいた。人魚にとって歌がどれほど特別な意味を持つのかを。
「人魚にとって歌は求愛の証」
「何?」
早口のため聞き取れなかったのだろう、もう一度聞き返される。私はさらに早く、一息で告げた。
「ですから異性に贈る歌は求愛の証なのですわ! 以上エスティーナ寝ます!」
「おいエス――」
話の途中だというのに扉の向こう側へと身を隠し、私は勢いよく閉めた。
ええ、ええっ! きっと言いたいことがあるのよね? でも聞いてあげません!
外には唖然と取り残された旦那様がいるのだろう。私は扉に背を付け足で踏ん張り、なんとか開けさせないようにと画策する。本当はソファーやタンスも使ってバリケードを作りたいところだ。
「エスティ!」
「なっ、何か!? 寝るったら寝ますから!」
扉越しに旦那様が名前を呼んでいようと今日はもうこの部屋から出るつもりはない。籠城する覚悟の私はさらに足に込める力を強くした。けれどいつまで経っても扉が無理に押されることはない。
「……お休み」
向こう側からは確かにそう聞えた。私自身もそう言ったけれど……。
「俺は、またお前の歌が聴きたいと思う。だから、いつかまた聞かせてくれたら嬉しい」
もう一度、お休みと告げて旦那様の足音は遠ざかっていく。
私はずるずると扉に背をつけたまま、みっともなくその場に座り込んでいた。
「……狡い人」
きっとこれも作戦の内なのでしょう?
そんな風に寂しそうに言われてしまったら、今すぐにでも歌ってあげたくなってしまう。
「子どもの頃の私は無邪気だったのよ。人魚の文化を何も知らずにいた頃の純粋さが憎いわね、って、あ……」
旦那様は何も知らない。知らない顔をして歌ってしまえば良かったのではない?
けれどもう遅い。次に歌披露したのなら、私のそれは求愛の意味を伴うだろう。
「ああーっ!! 私の馬鹿ぁー!!」
自分を罵りながら切ない気分で眠りに就いたのが人間一日目、最後の記憶だ。