転生人魚姫はごはんが食べたい!
 それからニナは外出の許可を取り、私のためにてきぱきと服を選んでくれた。私にはあまり違いがわからないのだが、ニナが選んでくれた装いは良家の奥様風ではなく、今どきの町娘を意識してとのことらしい。町歩きに関しては私よりもしっかりしていそうで頼もしかった。

 訪れたリヴェールの港町はシレーネといった。

「旦那様に聞いたけれど、ここから王都までは随分と遠いのよね?」

「そうですね。シレーネはリヴェールの南部にあって、小さな田舎町ですから」

「これで田舎? 随分と活気があるように見えるわ」

 遠くから眺めていた時に肌で感じていた通りだ。実際に足を踏み入れると人の多さに圧倒される。商店の立ち並ぶ大通りは露店からカフェまで、どの店も繁盛しているように見えた。

「私も王都には行ったことがないので、あまり詳しくはないですけど……。イデットさん、あの方は以前は王都のお城で働いていたそうで。イデットさんの話では王都はこんなものではないそうです!」

「ねえ、ニナ。イデットさんは旦那様について王都からシレーネにやって来たわけじゃない? 旦那様はどうしてこの町に滞在しているの?」

 いわゆる第一王子でいらっしゃる旦那様。普通王子様というのは王都にいるものではないのかしら? そんな疑問を持つのも仕方のないことだ。

「そこまでは私も……。あの、答えになるかはわかりませんけど、昔シレーネはとある貴族が治めていたんです。けどその人はお城に居座って裕福な生活をするばかりで、町に暮らす私たちのことなんてちっとも考えてはくれませんでした。そんな時、王都から派遣された視察団の長が旦那様だったんです」

「なるほどね。旦那様はその貴族を退任させ、自らあの城の主になった。という話かしら?」

「そうなんです! こんな田舎町には勿体ない人ですよね。問題が起こればすぐに駆けつけてくれますし、どんなに忙しくても私たちの言葉に耳を傾けて下さいます。私のような平民のことも雇ってくれて……」

 表情を曇らせたニナの声は次第に小さくなっていく。やがて完全に口を閉ざしてしまった。

「ニナ?」

「案内、やっぱりイデットさんの方が良かったですよね。イデットさんなら奥様の疑問に答えられたかもしれませんし……」
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