転生人魚姫はごはんが食べたい!
「さて、残念ながらニナは急ぎの用があるそうだ。その代わり、ここには仕事を終えた俺がいるぜ。ニナもこう言っていることだし、二人で楽しく食事して帰ろうじゃないか。なんなら案内も引き受けた」

 というかほとんど私に選択権は残されていない状況ですよね? ニナったら、すでに奥様ごゆっくりとか言っているもの。仕方がないわね。女同士の町歩きも楽しかったけれど、ここからは旦那様とご一緒させていただきますわ。

 ニナはぺこりと頭を下げ、旦那様に私の存在を託すと足早に駆け出して行った。

「邪魔したか?」

「いいえ。私は旦那様が一緒で心強いくらいですわ」

「おいおいどうした。嬉しいこと言ってくれるじゃねーか」

 本当に嬉しそうですね、旦那様。ええ、私も嬉しいですわ!

「任せとけ! 美味しい物を食べさせるのは俺の役目だからな」

「嬉しいです。約束、憶えていてくれたのですね」

「エスティの旦那は、この俺だからな」

「そうなんです。旦那様と一緒に行ってみたいお店があるんです!」

「店かよ!」

「はい、お店が!」

 ニナと二人だとどうしても浮いてしまいそうで、付き添いを頼んでいいものか躊躇っていたのよね。そこに颯爽と現れたのが旦那様というわけです。

「なんだー、何が食いたいんだー。なんでも食べさせてやるぞー……」

 そう告げる旦那様は投げやりに見えたけれど、この短期間で随分と私の扱いに慣れた様子だ。

 ねえ旦那様。私のこと、なんでも食べ物でつられる女だと思っていませんか? けれどなんでも食べさせてくれるだなんて、旦那様ったら乙女心を鷲掴みですわね!

「ぜひ行ってみたいお店があるのですけれど、どこかいい雰囲気の店を知りませんか?」

「おー、俺がどこへでも連れて行ってやるぞー」

 旦那様は確かにそう言ってくれたのだ。けれど私が目当ての店の特徴を上げ始めると顔を顰めていく。条件はそう難しくもないはずだけれど……

 一つ、お酒も提供している店。私は飲みませんよ!
 一つ、船乗りが多く集まりそうな店。
 一つ、賑やかで活気があること。
 一つ、大通りから少し奥まったところにあること。

 ああ、ネットがあればすぐに検索出来るのに! 今は口コミ、人の噂だけが頼りなんて……

「頼もしい旦那様がどこへでも連れて行ってくださると聞いたのですが?」

 不満そうな旦那様に向けて、わざと可愛らしく首を傾げた。

「確かに言った。俺は言ったが! 行ってみたい店が飲み屋ってのはどうなんだ!?」
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