転生人魚姫はごはんが食べたい!
「ラージェス様! うちにも頼みますぜ! 祝いの品をたっぷり仕入れておかないといけないんでね!」

「ああ、任せとけ! その代わり、しっかり祝ってくれよ!」

「もちろんですよ! それにしても随分と綺麗な奥さんですね。こりゃあめでたい!」

 乾杯と、あちこちのテーブルが祝いの言葉を掛けてくれた。
 ひとしきり騒動が落ち着いたところで私たちはカウンター席に移動する。この時間はテーブル席よりもこちらの方がすいているらしい。

「好きなだけ頼んでいいぞ」

 私、旦那様のそういうところ、大好きですわ!

 何を食べようかしらね~と、うきうき気分でメニューを眺めた私はこれまで気付きもしなかった重大な問題と直面した。

「どうした?」

 見るからに気落ちした私を旦那様は不思議がっている。私のメニューを持つ手は次第に震えていた。

 言葉は通じるし、食文化も似ているし、町中ではニナが一緒にいてくれたから不自由を感じることはなかったけれど……
 私、もしかしてこの世界の文字が読めないの!?

「旦那様、の……おすすめは何かしら!?」

 苦し紛れに注文を任せることしか出来ないなんて……自分で頼みたかったのにぃっ!

 じわじわと沸き上がる悔しさに、早急に文字を覚えることを決意した。

「旦那様! ここは旦那様のおすすめ料理を注文なさって下さい。私はそれが食べてみたい気分なのですわ!」

 苦し紛れの戦法だ。今は旦那様を信じるしかない。
 そこで旦那様が注文したのはピザという料理だった。前世にも同じ名前の料理はあるが、今はまだ私の知るピザと同じ保証はない。私は期待と不安を胸に到着を待っていた。もちろん一言聞いてしまえば簡単だけれど、期待に胸を踊らせていたいのだ。

 賑やかだけれど、落ち着いたいい店ね。昔を思い出すような、懐かしさを感じるわ。木の椅子も落ち着くし。

 なんとなく店内を眺めていると、壁に飾られた肖像画に目が止まる。

 金の髪に、青いドレス……女性が歌っているところかしら。綺麗な絵だけれど……

 額に飾られた肖像画は美しく、芸術と呼べるものだろう。だからこそ絵だけがあまりにも店内の雰囲気とずれているように思えてしまう。

「お待たせ致しました」

 不思議な絵に魅せられるも、到着した料理が私の意識をさらっていった。
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