転生人魚姫はごはんが食べたい！
　店主が手に持つのは平たく大きな皿で、そこから立ち上る香りは焼きたてのチーズだ。私の想像していたピザと同じようでほっとする。
　皿を覗くと平たく伸ばした生地に、たっぷりと乗せられた具材。その中でもひと際目を引くのはエビに貝だろう。飾りつけにちらされたバジルの緑も鮮やかだ。

　シーフードピザというわけね！

「さすがは港町ですわね」
　
「こちらは今朝仕入れたばかりのものを使わせていただいております。お気に召していただけましたでしょうか？」

「もちろんですわ！」

　円形のピザは現在八等分にカットされている。まだ食べてもいないのに私のテンションは上がりっぱなしだ。

「いただきますわね」

「遠慮なくいってくれ」

　旦那様に背中を押され、そのうちの一つを持ち上げるとチーズが糸を引く。ピザなんて、わたあめ以上に手の届かない物だと思っていた。

　確か……クリスマスに友達と集まって、ピザを頼んでパーティーをしたことがあったわね。あれはいつのクリスマスだったかしら……

　頑張って仕事の予定を開けて、シャンパンで乾杯をして。市販のピザにチーズとサラミを追加トッピングして食べたのもいい思い出だ。

　でも今は！　おそらく本物の石窯で焼いた焼きたてピザが目の前にあるのよ！

　やはり最初に感じるのはなんといってもチーズの風味。そして見た目からも推測出来るようにトマトソースで味付けされていた。柔らかな食卓に並ぶパンとは異なるピザ生地独特の口当たりも大事な要素。そのすべてが噛み合い、美味しさを作り上げていた。

「お前、本当美味そうに食べるよな」

「だって美味しいんですもの。料理も美味しくて、素敵な町だということが今日一日でよくわかりました」

「お前にそう言われると努力が報われた気がするよ。ありがとな」

「いつもお勤めご苦労様です」

　和やかな会話を楽しみながら旦那様と一緒にピザを完食した。
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