転生人魚姫はごはんが食べたい!
「そっ、俺の恩人と同じってな! 他にも、この町には青い人魚に助けられたって船乗りは多いんだぜ」

「それって……」

 もしかしてこの人も私が助けてたりします!?

 危うく叫びかけた私の唇を旦那様の指先が塞ぐ。確かに助けた人間をこの国の港に送りとどけることは多かった。なにしろ港町なので人に気付かれやすい。港が難しい場合は広大な砂浜に、それも難しい場合は岩場にと、とても都合がいい町なのだ。

「この町の連中にとって人魚、とりわけ青い人魚ってのは恩人だからな。人魚様に悪さを働く奴は遠慮なく通報されるってわけだ。むしろ町全体で崇めまくってるからな。俺らの目の届く場所で堂々と取引なんてさせてたまるかよ。なあ!」

 旦那様に話を向けられた店主さんは深く同意する。しかしその途中で私の視線を真正面から受け止めると思案に耽っていた。

「そういえば奥様は……随分と私の女神に特徴が似ていらっしゃるような……」

 人魚の私と人間の私、同一人物だと悟られることはまずないだろうけれど、まじまじと見つめられると困ってしまう。そしてさらに私を困らせる人物が隣に座っている。

「おっと、悪いがこいつは俺の女神だぜ」

 この得意気に語る旦那様ですよ!

 店主さんは微笑ましいような眼差しで私たちを眺め、ごちそうさまですと言った。そしてなんともいえない顔をした私の肩を励ますように叩く旦那様。

「まあ、お前の予想も悪くないと思うぜ。性懲りもなくこの町で取引の話題を持ち出す奴もいるからな」

 もしかしてこの顔の理由、取引現場を抑えられなかった落胆だと思われてます? 貴方のせいですよ旦那様っ!

 けれど私の意思は置き去りに話は進む。旦那様の発言に息巻く店主さんはカウンターを乗り出す勢いで力説し始めた。

「そうのですよ、奥様! 許せないことに先日もよからぬ行いを画策している輩を見つけてしまい、すぐさま密告してやりましたとも!」

「その節は助かったぜ」

 とんでもないことですと二人は和やかに話し合っている。私が取引場として疑ってしまった店は、むしろ協力店だったらしい。

「で、その男から手に入れた情報なんだが。なんでも一年ほど前、とある貴族と人魚の取引をしたことがあるらしい」

「その方は!?」

 私は居てもたってもいられず席を立っていた。
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