転生人魚姫はごはんが食べたい!
 イデットさんと出会った洞窟から、私は海の国へと向かった。
 念のため靴を脱いで飛び込むと、不思議なことに服は消え、かつての人魚としての姿を取り戻した私がいた。
 急な里帰りではあったけれど、家族も友人も温かく迎えてくれた。レイシーなんてずっとそばを離れなかったくらいだ。
 そこで私は伝えた。私の旦那様がどんな人かを。私たちを守るために何をしてくれているのかを。
 仲間たちは真剣に私の話に耳を傾けてくれた。そして私の無事を喜んでくれた。旦那様に対しては、まだ疑っているところもあるみたいだけれど、それはこれから私が伝えていくしかないだろう。
 急な訪問となってしまったため、今回は用件だけを伝えてまた洞窟へと戻った。名残惜しくはあるけれど、私の帰る場所はあのお城だ。あまり遅くなって心配を掛けてはいけない。
 海から上がると今度は水から弾きだされるような感覚があった。滴っていたはずの水は綺麗に抜け落ち、髪も乾いて何事もなかったように二本の足で洞窟に立っていた。

「まるで魔法ね」

 置きっぱなしになていた靴を履き、私は一人で元来た道を戻る。
 途中、近くを通った時にはあの占い師の姿がないか探してみたが、彼女のいたテントは忽然と姿を消していた。そんなところもまた謎めいていて、本当に力のある占い師だったのかと信じてしまいそうになる。

 また会えたのなら、今度こそきちんとお礼を伝えたいわね。

 そうしてもう一度町を抜け、旦那様と別れた場所まで差しかかった時のこと。淡く訪れていた闇に人影を見つけた。

「旦那様?」

 旦那様が道端にある大きな石に座っていたのだ。

「どうして……」

 唖然と呟く私に旦那様は当然のように告げてくる。

「待ってた」

「どうしてですか!? だってお城はもう目の前で、こんな……何もないところで、まさかずっと……?」

 いつ戻って来るかもわからないのに待っていたの?

「俺だけ先に帰ったら喧嘩したみたいだろ」

 旦那様は悪戯っぽく言う。でも本当は、そんな理由じゃありませんよね?

「すみませんでした。私、随分と待たせてしまいましたよね」

「なーに、面倒ならとっくに帰ってるって。お前は先に帰れって、ちゃんと言ってくれただろ。それなのに俺が勝手にしたことだ。気にすんな」

「でも……」
< 75 / 132 >

この作品をシェア

pagetop