転生人魚姫はごはんが食べたい!
「わかりました。正直に言いましょう。私が過去に助けた人間は貴方だけではないのです」

「なんだと!?」

 彼が狼狽えると同時に私の背後ではうんうんと仲間たちが頷いている。

「姫様の人間救助率はトップクラスですものね」

「嵐になると自主的に見回りされていますものね」

 その通り。海で助けを求める人間がいるのなら、私は迷わず救いの手を差し伸べる。

「嘘だろ……俺の他に何人も男がいるってのかよ!?」

 言い方!!

「人助けだって言ってるでしょう! 誤解を招く発言は止してほしいわ! そちらこそ本当に私だと言えて? 人、人魚違いということはないのかしら」

 青い鱗を持つ者は少ないとはいえ、まったく存在しないわけじゃあないもの。

「誰が間違えたりするかよ。俺を助けてくれたのはお前だ。間違いない」

 私の発言は彼の中の何かを焚きつけたらしい。

 そう自信満々に言われてもねえ……

 私が視線で訴えていることに気付いたのか、いいかよく聞けと念を押された。

「青い人魚だった。曇り空の下でも輝きを失わない金色の髪の持ち主だ」

 確認するように髪が耳に掛けられる。

「嵐すらも恐れない、強い意思を感じさせる瞳は青だ」

 執拗に私の表情を覗きこんでいたのは瞳を確かめるためだったのかと理解する。

「声は優しいのに、歌声は力強いものだった」

 わ、私、この人に歌も披露したの!?

「何よりこの温かな手!」

「ひっ!?」

 さりげなく掌を持ち上げられ、流れる様な動作で握られる。

「俺の手を握り必死に励ましてくれた。恥ずかしい話だが、心細いという俺のために歌を聴かせてくれた。ずっと、忘れることが出来なかったんだ。それと……」

 彼はすっかり濡れてしまった服の懐を探った。

「これを返したかった」

 懐から取り出されたのは真珠で作られた耳飾りだ。とても見覚えのあるそれは、片方を失っても諦められないほどのお気に入りで、対となるものは今も私の片耳で揺れている。

「これは私の! 昔、嵐の日に失くしてしまったはずで……」

「倒れていた俺のそばに落ちていた。これを持っていればいつかまた会える気がしてさ。本当に叶った!」

 私の反応に満足したのか、彼は心底嬉しそうに語った。
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